もともとはチーフとして院内でリーダーシップを発揮していたスタッフKさん(TC・保育士・助手/13年目)。天性の明るさと大きな声が特徴で人望がある太陽のような存在のKさんは、結婚・出産・産休・育休を経て、パートで働くようになった。
若い常勤スタッフが医院の中核になってきて、サポート側にまわり少しずつ遠慮がちになってきていた。
お子さんが3人、ご主人の両親と同居。
若い頃のようにバリバリ働けなくなり、目標を掲げて若いスタッフや医院全体が頑張っている中で、みんなの力になりたいと思いながらも貢献できていない申し訳なさがあった。
新しい業務をスムーズに覚えられない自分へのもどかしさを感じたり、同じ保育士・TCを担当しているスタッフの仕事ぶりと自分を比較して劣等感を抱いたりする中で、気持ちが空回りをしていった。
診療中もミーティングもみんなの邪魔をしないようにすることが、いつしか仕事の優先事項になっていた。自分の意見は言わずに常に遠慮がちになり、声も小さく、自信のなさそうな態度と表情は、Kさんらしさをすっかり失っていた。
1on1の中で、Kさんは「逃げたい」「辞めたい」と漏らした。
それから一年、Kさんは復活を遂げ、自分らしさを発揮して楽しそうにイキイキと働いている。
Kさん復活までの「関わり方のポイント」
Point1. オフサイトミーティングでの全体目的・目標設定
今までは医院の目的・目標を院長が決めていた。
新しい期を迎えるにあたり、その目的・目標をスタッフが自分たちで主体的に決めたいということになった。
そこで、近隣の会議室を半日借りてオフサイトミーティングを実施。
その日だけではまとまらず、後日もう半日かけた。
一人ずつ「自分がどうしたいか?」ということを出し、全員で共有した。
その対話を通じて目的・目標を自分たちで決めることで、Kさんを含めた全員が自分ごととして考えるようになった。
一人ひとりの目的・目標から生まれたチームの目的・目標は、自分ごとになる。
Point2. 個人目標の設定(半年後、自分がどうなっていたいか?/今日すべきことは何か?)
みんなで決めた目的・目標に対し、「半年後に、自分自身どうなっていたいか?」という個人目標を立てた。
そして「そこを目指して、日々何をするか?」という行動目標を明確にした。
今日すべきことが明確になった。
Kさんはこれまで何をすればみんなの役に立てるのか?迷子になっていた。
自分は何をがんばればいいのか?見失っていた。
全体目標が明確になり、全体目標の達成に向けて、医院のボトルネックが明確になり共有されたことで、改めてこれまで何度かチャレンジしてきたがその都度挫折した口腔内写真撮影にも再チャレンジする決意ができたようだった。
何よりそれがみんなの役に立つことになると腹落ちしたようだった。
「なりたい自分」「自分の役割」「今日すべきこと」が明確になると、人は動き出す。
Point3. 共育(パートナーの存在と応援)
目標に向かって前進する際に、自分の目標を理解し応援してくれる仲間がいると心強い。ひとりでは続けられなかったが、共育パートナー制を導入し、お互いの目標達成を応援する相互コーチングがあることで、パートナーの応援が挑戦への後押しになる。小さな成功体験を祝福してくれる存在、結果が出ない時に一緒に悩み考え応援してくれる存在は、一歩前に踏み出す勇気をくれる。
お互いの目標達成に向けて、応援し合うパートナーの存在は、前に踏み出す勇気になる。
▼Point4. チームビルディング研修(ライフチャートワーク/プレイバックシアター)
「逃げたい」と言っていた時に比べて、状態は上向いてきていたが、まだまだ本来のKらしさには遠かった。
院内の全体の信頼関係にも危うさを感じていたため、全体の関係の質を高めることを目的に、1日使ってチームビルディング研修を実施した。
自分の人生を振り返る「ライフチャートワーク」を元に、一人一人発表。
仲間が歩んできた人生の背景や苦楽を知ることは関係性の距離を縮めた。
更に、仲間の人生の事件ベスト3の中から1つを、仲間で即興劇を演じること(プレイバックシアター)で、その人の気持ちを深く感じ演じる中で、お互いが大切な存在になりはじめた。
▼Point5. 他人と比較しないタテ目標を設定(小さな目標設定、小さな自信を積み重ねる)
みんな調子が落ちてくると人目が気になり出す。すべきことに集中できていない証拠だ。Kと1on1をしていると、Kの口からは他人との比較で自分をみる言葉が多かった。「みんなと比べて私の目標は低いですよね。こんな目標でいいのかな?」とか「◯◯さんの目標に比べると、私の目標だと悪い気がします。」と言って、自分の目標を少しずつ高くしていこうとする傾向があった。気持ちはよくわかったが、小さな目標を一つ一つクリアすることに徹底してもらった。そして、ゆっくりでも一歩一歩、着実に前進して念願の口腔内写真撮影の院内試験をクリア!TCとして目標にしていたことも1つずつ達成し、小さな自信を積み重ねてきて、安心感のある大きな声と太陽のように明るい本来のKらしさが戻ってきた。
それから一年、「一年で最も成長したスタッフ」を決めるスタッフ投票の候補名にもあがってくるほど、Kさんは復活を遂げ、自分らしさを発揮して楽しそうにイキイキと働いている。医院に笑顔と活気が戻り患者さんに安心を与えている。
以上、Kさん復活の中で「関わり方のポイント」をピックアップしたが、これがすべてはありません。一番は本人の決意と努力、そして院長や周囲のスタッフの熱心な毎日の関わりの賜物です。主役はスタッフ。あくまで我々のサポートの「関わり方」の一例のご紹介です